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3−15 ジェニーへの頼み

last update Last Updated: 2025-08-03 22:00:26

 メイドから手当を受けたジェニファーは、早速明日も外出して良いか尋ねることにした。

「あのね、ジェニー。実は明日もニコラスと会う約束をしてしまったのだけど……出掛けて良いかしら?」

「え!? 明日も出掛けるつもりなの? それは駄目よ!」

予想外の反対にあい、ジェニファーは焦った。

「え? ど、どうして駄目なの?」

「だってジェニファーは怪我をしているじゃない。最初は手だけかと思ったけど、足も怪我しているわ。それなのに出掛けては駄目よ。明日は家で私と一緒に過ごしましょう?」

ジェニーはジェニファーの手を握りしめてきた。

「だけど、ニコラスと約束してしまったのよ。明日も会いに行くって」

するとジェニーが悲しそうな目で見つめてきた。

「ジェニファーは……私と一緒に過ごすよりも、ニコラスと一緒に遊びたいの?」

「そういうわけじゃないわ。ただ約束してしまったからなの。勝手に約束を破るわけにはいかないでしょう?」

「待ち合わせ時間にジェニファーが来なければニコラスだって諦めて帰るはずよ」

友達が1人もいたことのないジェニーは人付き合いとはどういうものなのか、良く理解していなかった。

ジェニファーはすっかり困り果ててしまった。

(どうしよう……約束を勝手に破ればニコラスは怒るに違いないわ)

ニコラスに嫌われたくは無かったジェニファーに良い考えが浮かんだ。

「ねぇ、聞いて。ジェニー。ニコラスは私のことをジェニーだと思っているの?」

「そうだったわね。確か彼の前では私の名前を名乗っているのでしょう?」

「そうよ。もし明日私が待ち合わせ場所に行かなければ、きっとニコラスは怒ると思うの。ジェニー、あなたのことを」

「え……? 私のことを……?」

「そうよ。だってニコラスは私がジェニファーだとは知らないのだもの。ひょっとするとジェニーが嫌われてしまうかもしれない」

「私が嫌われる? それはいやよ!」

激しく首を振るジェニー。

「だったら、明日もニコラスに会いに行っていいでしょう? その代わりに2人で会ってどんなことをして過ごしたか全部報告するから」

その言葉に少しの間、ジェニーは口を閉ざしていたが……。

「……分かったわ、明日も出掛けてきていいわ。その代わり、条件があるの」

「条件? 何かしら?」

「あのね、私……ニコラスがどんな顔をしているか知りたいの。明日、町の写真屋さんで写真を撮っ
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     アクセサリー屋さんを出ると、ニコラスはじっとジェニファーを見つめた。「な、何?」あまり同世代の男の子と接したことがないジェニファーは気後れしながら首を傾げる。「そのウサギのブローチを見ていたんだ。うん、やっぱりジェニーに良く似合ってる。可愛いよ」「あ、ありがとう」(きっとブローチが可愛いという意味で言ったのよね)分かってはいたものの、ドキドキしながらお礼を述べた。「ジェニー、これからどうする? 何処か行きたい場所はある?」「そうねぇ……」こんなときでも、ジェニファーの頭の中にはジェニーのことが消えなかった。1人寂しく部屋で過ごしているジェニーを思うと、罪悪感がこみ上げてくる。「どうかしたの? ジェニー」「う、ううん。なんでもないわ。そうね……本屋さんにいってみたいわ」本をお土産に買っていけば、自分が留守の間もジェニーは寂しい思いをしなくても済むかもしれない。心優しいジェニファーは、そう考えたのだ。「本屋さんか……うん、いいね。僕も本を読むのが好きだし……それじゃ、一緒に行こう!」ニコラスは笑顔でジェニーの右手を繋いできた。「う、うん。そうね、行きましょう」ジェニファーは返事をすると、二人は仲良く手を繋いで本屋さんを目指した。「ジェニー、あのお店はキャンディー屋さんだよ。それで、あの店は手芸店」歩きながら、ニコラスは様々な店を教えてくれる。「ニコラスは、この町のことが詳しいのね」最初は手を繋いで歩くことに緊張していたジェニファーだったが、今は自然に歩くことが出来ていた。「うん、まぁね。……今住んでいる城には僕の居場所は無いから。だからなるべく町に出ているようにしているんだ。一人ではあまり楽しくも無いけどね」「あ……」その言葉にジェニファーは思い出した。(確かニコラスも私と一緒で、他所の家にお世話になっているのだったわ)けれど、ジェニファーはフォルクマン伯爵家の暮らしにとても満足していた。伯爵もジェニーも、それに使用人たちも皆とても親切だ。美味しい料理に綺麗なドレスを与えられ、ずっと希望していた勉強もさせてもらっている。何不自由無い暮らしをさせてもらっているのだ。けれど、きっとニコラスは違うのだろう。そんなニコラスを見ていると、気の毒に思えた。「大丈夫よ、ニコラス。私がいるもの。だって、私達は友達でしょ

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